障害年金無料相談キャンペーンの実施

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障害年金無料相談キャンペーン実施 8月17日(金)~9月25日(火)
 ① 相談内容:時効問題(時効消滅不支給年金の返還請求対策) ② 相談方法:事務所面談又はメール、FAX(面談打合せ、又は図解請求はTEL可) ③ 相談時間:約30分
 緊急レポート   消された障害年金」は内容証明郵便で支払い催告すべし!! 時効で不支給とされた年金は返してもらいましょう!!

 受給権保護は社労士の役割の一つ  名古屋高裁画期的判決!!
※ 以下は中々難解な問題ですが、先ずは、一通り目を通してください。

1 はじめに  
 ここで言う「消された障害年金」とは、やむを得ず裁定請求が5年を超えて遅れた場合の「5年以上経過で消滅時効により支払額の算定の基礎とならない」、として不支給とされた「障害認定日による請求」に基づく障害基礎年金のことです。
 私が成年後見人・法廷代理人として民法第158条1項(未成年又は成年被後見人と時効の停止)を請求根拠に争ってきた約10年遅れの障害認定日請求に基づく「障害基礎年金支給請求事件」の控訴審判決が、平成24年4月20日に名古屋高等裁判所から下されました。その概要(下記 2 事実関係の図解 参照)は、「本件障害基礎年金の5年超経過で消滅時効が完成しているとして不支給とされている年金給付を支払え」、という趣旨のかつて例のない画期的なものでした。
 私は、論争中、より根本的な論点で、国の支分権消滅時効に関する運用・解釈(起算点及び時効停止事由)に誤りのあること(以下「一般論点」という)に気付き、第一審の後半からは、いわば民衆訴訟の気概を持って、こちらの主張に主軸を移し争ってきたものです。詰まり、同様の受給権者は、誰もが遡及支払い請求が可能なのです。

2 事実関係の図解(本来 黒太棒線 部分は、該当者に自主的に救済すべき部分です)

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3 現行の運用・被告・被控訴人の主張(①~⑨) 対 原告・控訴人の主張(★) 
 ① 国年法18条3項の各支払期月(権利発生直後の各月)が、消滅時効の起算点となる。 ★ 同条同項但書(その支払期月でない月)が法定の支払期月である。被告の主張は、事実を捻じ曲げた架空の事実(支払期月)を作り上げたものである。② 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する(民法第166条1項)、行使可能日は権利発生日である。 ★ 行使可能日は、裁定通知日である。 ③ 時効進行上の法律上の障碍とは、権利の内容、属性自体によって権利の行使を不能ならしめる事由をいう。裁定請求は法定必須要件(法16条)で、何時でもしようと思えばできるものだから、権利者の疾病等事実上の障碍による裁定請求の遅れは、法律上の障碍にはならない。 ★ 裁定請求ができない人には法律上の障碍になる。 ④ 受給権発生要件、支給時期、及び金額が法定(法18条、30条、33条等)されているので、法定の各支払期月が起算点の基準となる。 ★ 障害年金の支給の有無、支給時期、金額は裁定請求時には分からない。これは、正に、債権の効力発生を、将来の成否未定の事実にかからしめる方法に合致しており、停止条件付き債権そのものだ。(本邦初指摘・主張) ⑤ 裁定は単なる確認行為であるから、裁定の有無、時期にかかわらず、順次支払期月が発生している。 ★ 障害については、裁定は単なる確認行為ではない。 ⑥ 具体的金額が確定していないからといって支分権たる年金受給権の消滅時効の進行に消長を来すものではない。 ★ 具体的請求権である支分権は、金額、支払期月が分からなければ請求も支払いもできない。従って、裁定請求前に本件支分権の支払期月が到来することはない。 ⑦ 東京高裁判決(昭和46年7月29日)の事案(国税徴収・納付の消滅時効)は本件と事案を異にする。 ★ 支分権の権利行使面では同じである。 ⑧ 法第18条3項但書は、時効消滅した年金の支給時期を定めたものではない。 ★ 本件は、未だ、消滅時効は完成していない。 ⑨ 会計法第31条1項により「時効の援用を要せず」、「権利を放棄することができない」、から消滅時効は完成している。 ★ これは、消滅時効が完成してからの問題である。

4 名古屋地裁の判決  
 名古屋地裁は、前項記載の被告の主張を全面的に認め、原告の敗訴となりました。「被告の主張を鑑みると、前記 3の ⑤ を観念することができる」、及び「被告主張の前記 3の ③ から支分権の不行使の状態が、基本権の不行使の状態と継続しており、法律上の障碍に当らない」、等を判決理由としていました。 これには論理の飛躍があります。

5 名古屋高裁の判決
 名古屋高裁は、地裁判決から一転して、控訴人の主張をほぼ全面的に認め、結果、画期的な判決が下されました。この際に明示された判決理由には、次項の最高裁判例を引用しているので、この判決が覆ることはありません。
【名古屋高裁判決理由】
① 裁定が単なる確認行為にすぎないことを考慮しても、裁定を受けない限り、支分権は、未だ具体化していない ②裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障碍に当たり、時効の進行の妨げになる。 ③ 本件不支給部分についての消滅時効の起算点は、本件裁定が控訴人に通知された時点である。
 
6 名古屋高裁と同様の考え方を説示した最高裁判例、社会保険審査会裁決
★ 本村年金訴訟・上告審 (最判 平成 7.11.7)判例 参照
★ 社会保険審査会裁決:このような実効性の希薄な年金受給権について、裁定を経ない状態のままで、法令上の支給月の到来により個々の支分権まで発生するとするのは、事柄の実体から乖離した観念操作の嫌いがあり、容易に首肯することはできない。 月刊社労士2009.4号(3件の照会あり) 参照
 
7 緊急を要する措置
 私は、上記6の事実を名古屋高裁判決後に知りました。この内容を考えると保険者(国)の「上告受理申立書」の提出は非常に残念なことですが、この高裁判決は、未だ確定していません。しかし、この間にも既受給者の皆様の不支給とされた支分権の消滅時効は、刻々と進行しています。裁定から5年を超えると、例えば、10年分ですと約800万円と高額ですが、今度は一瞬にして全部消えてしまいます。支給原資等の問題から国が自主的に救済することは余り期待できません。                                                  以上

※ 20120807の記事を ©

 

 

当事務所のオンリーワン

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 開業約9カ月の反省と、宣伝を兼ねて、当事務所のオンリーワンを探ってみます。

 その前に先ず、当事務所の目指すものについて触れます。それは、文字どおり一口で言えば、「顧問先の労働生産性の向上の実現」、です。その実現方法は、色々あります。その会社のステージ、経営者の想い、業種、風土等によって変わってきますが、「従業員は、会社最大のステークホルダーである」、というベースの考え方は、不変のものであると私は考えます。

※ 究極目的  →  労働生産性の向上の実現

 次に当事務所のオンリーワンですが、他の事務所では真似のできない特技に絞って述べます。

 時系列的には、先ず、「就業規則の全面改正」、です。新規作成は、比較的どこの事務所でも無難にできますが、上記のように会社を良くして行くための全面改正は簡単なものではありません。従来の規程(一つ一つの規定を含む)を理解して、どこがどうして拙いのか、これをどのようにすれば、なぜ良くなるのかを、時には意見交換を交えて改正作業を進めます。改正作業の過程においても会社を良くしていく要素を加えていきます。過程が良ければ結果は自然についてきます。結果は管理できないのです。過程を管理するには、不具合の原因を直視する「的確な診断」と、実現可能な「近い目標」を定めることが重要です。ここでは、当事務所代表の色々な職場での経験が活かされるので、会社の実態にフィットした具体的な内容に変えていきます。
 また、内容によっては、「就業規則による一方的不利益変更」、に該当しないか等の法律的な問題にも直面しますが、ここでも、長年の企業法務の経験が役立ちます。

※ 真似のできない出来栄え
1 就業規則(関連規程込み)の全面改正
 新規作成は比較的簡単 実態把握 経営者・従業員の納得 創造的問題解決 分かり易く具体的な文章表現

 次に、私の最も得意とする分野です。従業員のヤル気の醸成であり、教育・訓練の側面です。私は、消費生活アドバイザーですので、常に、消費者と企業のパイプ役という視点を持っています。この面では、NACS(公益社団法人日本消費生活アドバイザー、コンサルタント協会)に所属して、専門知識の維持向上に研鑽を積んでいますので、消費者から見た、会社の従業員のあり方については、誰もが真似することができない洞察力、質問力、先見性を発揮して指導・育成できます。
 この側面が、労務管理上一番よく現れる現象は、次の表現になります。

2 トラブル予防・トラブル解決(従業員、労組、消費者)
 従業員は会社の最大のステークホルダー 2つのCS が会社を良くする(Customer Satisfaction、Creative Solution)
 視点を変えれば180°好転する
 最適の教育・訓練方法の選択、実行
 リスク回避体制の確立

 最後の3番目には、個人様へのサービスについて記述します。私は、色々な事情で、社労士になる前から、細々と障害者支援の活動をしてきました。全国には、多くの障害者がみえるのですが、私が社労士として力を入れているのは、本来なら支給されるべき障害基礎年金が支給されていない場合の支援です。障害厚生年金については、健康保険の傷病手当金との併給調整との問題もあり、裁定請求の遅れの問題はほとんどないと思いますが、障害基礎年金では、障害の性質の問題、及び情報不足の問題等があり、遅れて裁定請求される場合がしばしばあります。年金事務所の対応は、随分良くなりましたが、問題が無い訳ではありません。これにも、制度自体、書類の内容等色々な問題があります。私の出番は、裁定請求自体で、受給し易く(請求が通り易く)することと、受給されても、不法に時効完成を理由に不支給とされないように請求することです。この両面で、請求が認められなければ、受給権者の意向に沿って、不服申立てをすることを含みます。
 後者で述べた時効に関しては、障害年金について、未だ最高裁の支持は得ていません(老齢については同様内容の判例あり)が、ものの道理からして、私や名古屋高裁の考え方が、最高裁においてもお認めいただけるものと考えています。簡潔に述べれば、下記3の内容です。

3 障害年金裁定請求代行 不服申立申立代行
 根本を違えない的確な申請、申立て 消滅時効の起算日の誤った運用を指摘し、一般論点でも高裁で国に完全勝訴した問題発見力、総合的能力(洞察力、質問力、及び先見性の結合)

※ 20120714の記事を ©

 

緊急レポート 消された障害年金の奪還可能性

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受給権保護は社労士の役割の一つ  名古屋高裁画期的判決!!
                                       愛知会 木戸 義明

1 はじめに
 私が成年後見人・法廷代理人として民法第158条1項を請求根拠に争ってきた約10年遅れの障害認定日請求に基づく「障害基礎年金支給請求事件」の控訴審判決が、平成24年4月20日に名古屋高等裁判所から下されました。その概要は、「本件障害基礎年金の5年超経過で消滅時効が完成しているとして不支給とされている年金給付を支払え」、という趣旨のかつて例のない画期的なものでした。この訴訟は、当初、上記の請求理由でしたが、係争中に、より根本的なところで、国の支分権消滅時効に関する運用・解釈に誤りのあること(以下「一般論点」という)に気付き、第一審の後半からは、いわば民衆訴訟の気概を持って、こちらの主張に主軸を移し争ってきたものです。本稿では、特に後者に絞って述べます。

2 一般論点に関する主張の対立(左 原告・控訴人 右 被告・被控訴人) 
◆ 本件の法定の支払期月は、国年法第18条3項但書  ←→  同条3項原則
◆ 支分権消滅時効の起算日は裁定請求日基準 ←→  基本権発生に準じた各月

3 原告・控訴人の主張・根拠 
 ① 保険者の従来の運用は、権利行使不可能な裁定請求前に法定の支払期月が存在するというもので、事実を捻じ曲げた架空の事実(支払期月)を作り上げたものである。 ② 法18条3項には、このような不測の事態のための但書が存在する。 ③ 裁定請求前に本件支分権の支払期月が到来することはなく、本件は裁定請求から5年を経過しておらず、消滅時効は完成していない。 ④ 会計法第31条1項は、消滅時効が完成してからの問題であるから、消滅時効が完成していない本件には、無関係である。 ⑤ 裁定請求時には、障害等級に該当するかどうかも未定である。主治医が該当すると認定しても、これは効力がなく、保険者の指定した医師等が認定する必要がある。1級、又は2級の障害等級は分からず、金額も分からない時点では、具体的請求権である支分権を、受給権者が請求することも、保険者が支払うこともできない。これは、正に、債権の効力発生を、将来の成否未定の事実にかからしめる方法に合致しており、停止条件付き債権そのものだ。(本邦初指摘・主張)

4 被告・被控訴人の主張・根拠 
 ① 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する(民法第166条1項) ② 裁定請求は法定必須要件(法16条)で、何時でもしようと思えばできるものだから、権利者の疾病等事実上の障碍による裁定請求の遅れは、時効進行上の法律上の障碍にはならない。 ③ 法律上の障碍とは、権利の内容、属性自体によって権利の行使を不能ならしめる事由をいう。 ④ 受給権発生要件、支給時期、及び金額が法定(法18条、30条、33条等)されているので、法定の各支払期月が起算点の基準となる。 ⑤ 裁定は単なる確認行為であるから、裁定の有無、時期にかかわらず、順次支払期月が発生している。 ⑥ 具体的金額が確定していないからといって支分権たる年金受給権の消滅時効の進行に消長を来すものではない。東京高裁判決(昭和46年7月29日)の事案(国税徴収・納付の消滅時効)は本件と事案を異にする。 ⑦ 法第18条3項但書は、時効消滅した年金の支給時期を定めたものではない。 ⑧ 会計法第31条1項により「時効の援用を要せず」、「権利を放棄することができない」、から消滅時効は完成している。

5 名古屋地裁の判決理由
 名古屋地裁は、前項記載の被告の主張を全面的に認め、原告の敗訴となりました。「被告の主張 ①、②、③及び、④を鑑みると、⑤を観念することができる。」、及び「被告主張の ②から支分権の不行使の状態が継続しており、法律上の障碍に当らない。」、等を判決理由としていました。

6 名古屋高裁の判決理由
 名古屋高裁は、地裁判決から一転して、控訴人の主張をほぼ全面的に認め、結果、画期的な判決が下されました。この際に明示された判決理由は以下のとおりです(判決理由に、次項「本村年金訴訟」上告審判決を引用)。
【名古屋高裁判決理由】
① 裁定が単なる確認行為にすぎないことを考慮しても、裁定を受けない限り、支分権は、未だ具体化していない ②裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障碍に当たり、時効の進行の妨げになる。 ③ 本件不支給部分についての消滅時効の起算点は、本件裁定が控訴人に通知された時点である。
 
7 名古屋高裁と同様の考え方を説示した最高裁判例、社会保険審査会裁決
● 本村年金訴訟・上告審 (最判 平成 7.11.7)判例 参照
● 社会保険審査会裁決:裁定の性質は、実質においては裁定請求権に近い、現実的な実効性の希薄なものである。このような実効性の希薄な年金受給権について、裁定を経ない状態のままで、法令上の支給月の到来により個々の支分権まで発生するとするのは、事柄の実体から乖離した観念操作の嫌いがあり、容易に首肯することはできない。 月刊社労士2009.4号(3件の照会あり) 参照
 
8 その他
 残念ながら、この高裁判決は、被控訴人の「上告受理申立書」の提出により、未だ確定していません。このため、我々社労士は、以下の件につき、慎重な対応が必要です。
■ 事情次第で予防的に時効中断措置を採っておくこと 
 支分権の消滅時効は、刻々と進行しています。最高裁の結論が出るまでにも、裁定から5年を超えると、例え10年分(2級で約800万円)でも、今度は一瞬にして全部消えてしまいます。従来の考え方に対する拘泥、支給原資等から保険者(国)による自主的救済は余り期待できません。
■ 拡大解釈要注意
 本件は、老齢年金、遺族年金等のように保険事故の存在、及び時期が、誰の目にも明らかな事案について争ったものではない。                             以上

※ 20120624記事の ©

緊急レポート
1 事件の概要 
 平成24年4月20日(金)、名古屋高等裁判所(渡辺修明裁判長)が、「本件障害基礎年金の5年超経過で消滅時効が完成しているとして不支給とされている年金給付(支分権相当額)を支払え」、という趣旨の画期的判決を下しました。この成果は、私が成年後見人・法廷代理人として基本的な考え方(合理性、及びリーガルマインド)のみを武器にして、国の指定代理人12人と一人で争ってきた約2年間(当時の社会保険事務所への説明・請求からは、約3年間という永い年月)、及び広く一般論として、同様のケースの被害者の救済が可能となる判決が出されたことを考えると、人生最大の喜びでした。
 (参考 支分権:基本権に基づき、支払期月ごとに支給を受けられる具体的な年金受給権)
 この事例は、初診日当時49歳のサラリーマンの妻である国民年金の第3号被保険者が、統合失調症に罹患し、初診日当日、即入院となり、同病院に1年7カ月入院していた経緯があり、障害認定日は、退院の1カ月前で、退院時には既に障害基礎年金の裁定請求をすることができる状態であった内容のものです。ところが本人は、自分が病気であるとか、障害者であるとかの認識がほとんどなく、服薬も家族の援助がないとできない状態でした。家族や親戚の者も障害基礎年金の障害等級に該当するほどの障害の状態とは思っておらず、裁定請求はそれから約10年後の、本人が60歳になってからになってしまった事案です。なお、個別具体的事件としての主張根拠については、本人の行為能力は、支分権の最初の消滅時効の到来する間際には、心神喪失の常況、又はそれに近い状態であったと推認されたことによる判決です。
 しかし、本稿では、本件のように、裁定請求をしようとしてもできない状態の場合の支分権の発生時期に関する法律の運用・解釈の一般論として、裁定の性質、及び支分権の消滅時効の起算点(支分権の発生時期)の問題に絞り考えていきます。このように限定しても、現実の利害関係者は数多くおみえになります。受給権者の関係者にとっては、死活問題ですし、保険者にとっては、支給原資の問題を含め、制度の根幹にかかわる大問題なのです。本稿の読者の大半は、年金の専門家であり、民法等法律の基本を理解された方が多いので、その前提に立って記述します。


2 権利侵害の大きさ 
 ここで問題とするのは、受給権者本人が、障害者であるという認識、又は自覚がなかった場合の、国民年金法第30条に基づく障害基礎年金の裁定請求が5年を超えて遅くなった場合に生じる時効が完成しているとして不支給とされた支分権の帰属のありかの問題です。この場合、従来保険者(国)は、遡及5年分の支分権の支払いはしてきましたが、それを超えた分は消滅時効が完成しているとして支払ってきませんでした。名古屋高裁は、この一律の取扱いは誤りであると明解に判決を下しました。障害年金の裁定請求を得意とし、多く扱っている仲間の社労士の話では、社労士は難しい案件を扱う傾向になるので、「私の扱う事件のほとんどが5年を超えているもの」、とのことでした。例えば、15年遅れて裁定請求した場合、10年分で、障害等級2級であれば約800万円の標題の権利の侵害が行われてきたことになります。個々の問題としても大きな問題ですが、この権利侵害が、保険者(国)による、国民生活にとって重大な法律の運用・解釈の誤りにより、永年にわたり公然と行われてきたことが大きな問題です。しかも、該当される方たちは、経済的にも恵まれない方たちが多いことが大問題です。私は、これを少しでも早期に正していくのは、社会保険労務士に課せられた使命であると考えています。


3 一般論としての論点  
 本稿では、既述のとおり、個別具体的事件としての論点は割愛し、障害年金の裁定の性質、及び本件支分権の消滅時効の起算点に関する正しい解釈という側面からのみ論述します。私は、本件訴訟の第一審の後半からは、いわば民衆訴訟の気概を持ってこの主張を重点に主張を展開してきました。
 この問題は、今まで、多くの受給権者や関係者(特に、ご家族や精神科医師等)が理不尽と感じながらも、やむを得ず裁定請求をするのが遅くなった、5年を越えた部分の年金支給を、我慢、又は諦めてきた問題です。何故かと言えば、ここで示す一般論としては、大方の人が、国の行うことで、このような基本的なところで間違いはないだろうと信じてきたからです。
 私が、この一般論としての問題点に気付いたのは、成年後見人に就任し、法廷代理人として提訴した、民法第158条1項の準用等を請求根拠とする個別具体的事件(消滅時効が完成しているとして不支給とされた4年5か月分の障害基礎年金の支給請求事件)を争っている最中に、被告(保険者:国)の主張に矛盾を感じとことにあります。
 この名古屋高裁の判決の意義は、純粋に法律論として受給権者が勝訴したところにあります。まだ、判決は確定していませんが、これが最高裁で逆転すれば、日本の司法制度は崩壊です。何故ならば、名古屋高裁は、裁定の性質、及び支分権の取得時期に関する正しい最高裁判例の考え方を確認して、判断を下しているからです。更に、この判決後も、これを後押しする強力な情報が把握できましたので、順次述べます。多くの裁判は、事実認定とか、証拠の信憑性が争われるのですが、本件の一般論としての主張については、その要素は全くありません。名古屋高等裁判所は、純粋に、法律(国民年金法、会計法、及び民法)の運用・解釈の基本的な考え方について、保険者としての国の考え方が誤っていることを明確に示しました。この高裁判断と異なる被控訴人(国)の主張には「理由(根拠)がない」、とことごとく斥けました。
 勿論、私はいきなり訴訟を提起した訳ではありません。順序を踏み、当時の社会保険事務所、社会保険事務局、社会保険庁、及び社会保険審査官に説明し、又は所要の手続をしましたが、理解が得られなかったり、クレーマー扱いされたり、「原処分を裁定である」、と誤判断され却下されたりしました。時間が許せば、社会保険審査会に再審査請求をしたかったのですが、私が本件について成年後見人として有効に行為できる期間は6か月以内で、その期限が迫っていたので、やむを得ず平成22年3月31日に名古屋地方裁判所に提訴しました。
(1)被告(保険者:国)の主張  
 法定(国民年金法第18条3項)の本件支分権の支払期月に関する保険者(国)の運用・解釈、主張は、基本権の発生に伴い、その後1か月か2か月後に順次発生する同条同項前文で定める文理解釈上の各月が正しい支払期月であるというものでした。消滅時効は、権利を行使する時から進行する(民法第166条1項)、を根拠に、裁定請求は何時でもしようと思えばできるので、本件裁定請求の遅れは、時効進行上の法律上の障碍にはならない旨主張し、法定の各支払期月が起算点の基準となる旨の主張でした。その根拠は、「裁定は単なる確認行為であるから、裁定の有無、時期にかかわらず、上記のとおり、順次支払期月が発生している」、というものでした。
 同条同項但書(ただし、前支払期に支払うべきであった年金又は権利が消滅した場合若しくは年金の支給を停止した場合におけるその期の年金は、その支払期月でない月であっても、支払うものとする)の解釈については、制限列挙を意味する条文で、本件の場合には適用されない旨、乙号証を提出して原告の主張に対して反論してきました。
 本件のように時効で消滅した年金について支払うことを定めたものではないとも主張しました。時効消滅しておればそもそも支払う必要がないので、おかしな主張ですが、これが被告の主張で、第一審の判決理由にも引用されていました。
 原告の主張は、独自のもので、個人的見解であるとも主張しました。従って、その見解に立てば、法18条3項で規定する原則的な各支払期月から5年を超える支分権は、順次消滅時効が完成してしまうことになります。
 具体的な請求権である支分権が、金額も決まらず権利者が請求できない状態で消滅時効が進行・完成するのは不合理である旨の原告の主張に対しては、被告は、裁定によって具体的金額が確定していないからといって支分権たる年金受給権の消滅時効の進行に消長を来すものではないと主張していました。そして、会計法第31条1項により「時効の援用を要せず」、「権利を放棄することができない」、から消滅時効は完成しているとの主張でした。
(2)原告(控訴人:著者)の主張  
 当時準用されていた会計法第30条の規定は、今でもそうですが、消滅時効が完成するのには、5年間の権利行使期間を必要としていました。5年間の内に権利を行使できるにもかかわらず行使しない者は、「権利に眠るものは保護されない」、という考え方を採っているので、消滅時効が完成することになります。
 しかし、この被告の本件主張では、権利の行使機会すらなく、裁定請求と同時に一瞬にして基本権の発生と同時に、支払期月(限)も、その後5年経過で迎える時効期限も到来し、何人も時効の中断・停止の機会すらないまま、消滅時効が完成してしまうという矛盾が生じます。このような不合理はあって良い筈がなく、時効制度の本旨にも反する保険者のご都合主義だと反論しました。会計法を準用している国の機関は数多くありますが、このような勝手な運用・解釈をしているのは、私の調べたところでは、厚生労働省だけでしたので、その旨の指摘もしました。
 被告の主張する支払期月は、権利行使不可能な裁定請求前に法定の支払期月が存在するというもので、事実を捻じ曲げた架空の事実(支払期月)を作り上げたものです。国民の命を守るこのような重要な法律の運用・解釈において、あってはならないものだと指摘し、主張してきました。しかも、条文を良く見てみれば、法第18条3項には、このような不測の事態のための但書が存在するのです。私は本件支分権の法定の支払期月は同条同項但書(前掲済み)であると主張しました。従って、本件においては、裁定請求前に本件支分権の支払期月が到来することはなく、裁定請求から5年を経過しておらず、本件支分権の消滅時効は完成していないという主張をしました。
 また、独自の見解だという主張については、今まで誰もが指摘していない論点を問題にしているので、独自の見解になるのは当然で、独自の見解だという主張は、それが正しくないという証明にはならない旨主張しました。
 会計法第31条1項については、消滅時効が完成してからの問題ですから、消滅時効が完成していない本件には、無関係である旨主張しました。
(3)訴訟当事者以外の見解等   
 上記(2)の私の主張は、過去公的年金約70年の歴史において、保険者(国)の専門官も、受給権者も、社労士も、弁護士も、学者も誰一人として指摘してこなかった論点ですので、私は、独善を避けるべく、できるだけ多くの方たちにご意見を伺いました。正しい主張を進めるには、その主張が、客観的で合理的である必要があるからです。意見をお聴きした社労士の方の多くは、私の主張に対して、関心を示さなかったり、意見を理解する人は少なく、受験予備校のある有名な先生からは、本来基本権の消滅時効が完成しているものを、宥恕をもって、特別に時効を援用しない措置としているものだから、そもそも支分権もその時点で消滅しているものであり、私の主張には無理がるとのご意見を拝聴しました。また、別のある有名な先生は、「微妙だ」、とのみおっしゃいました。
 お話しした弁護士の先生は、大半は私の主張に理解を示されましたが、中には、これを裁判官に分かってもらうのに、どのように表現するのかの問題点を指摘される先生もおみえになりました。現に、そのとおり、第一審は、弁論主義における私の主張責任の欠如が原因で完敗でした。
 しかし、酷いことに、被告の誤った主張表現に私が乗ってしまい、私が誤った主張を展開してしまったのも原因です。余談ですが、完敗の主因ですので少し触れますが、被告が、「裁定手続の遅れなど」、と表現すべきところ、「裁定請求の遅れなど」、と準備書面に誤って記載してきたので、私は、「何を訳の分からないことを言っているんだ」、とくらいにしか考えず、深く追及しなかったのです。ところが裁判官は、被告の表現を、言葉どおりには受けとめず、「裁定請求の手続の遅れ等」、と解釈し、推論を進められたようです。この表現の違いは、当事者が全く反対になるので、180度方向が違うのですが、一面では、これが確認もされずに、第一審判決となってしまいました。裁判とは恐ろしいものです。原告が控訴を諦めた場合、第一審判決が確定していたのですから。
 保険者の組織内にも、私の主張を正しいと判断された方が、お二人おみえになりました。その一人は、日本年金機構の時効特例第4グループの電話応対者で、いま一人は年金事務所のお客様相談室長でした。国の指定代理人の、「時効ありき」、の無理な主張は、既に内部分裂していました。
(4)第一審の判決  
 名古屋地方裁判所は、被告の主張のほとんどを認め、次のように判決理由を記述(一部要約・記載省略あり)しています。
 本件支分権については、時効に関し、改正前の国民年金法に規定がないから、会計法の適用を受け、支分権は、その「権利を行使する時」(民法第166条1項)から、5年を経過したときに順次時効消滅するものと解される。(会計法30条、31条1項後段)
 そして、上記の「権利を行使することができる時」とは、権利の行使について法律上の障害がなくなったとき、すなわち、権利の内容、属性自体によって権利の行使を不能ならしめる事由がなくなったときをいうものであって、権利者の疾病等主観的事情によって権利を行使し得ないとしても、それは事実上の障害にすぎず、時効の進行を妨げる事由にはならないというべきである。
 裁定及び支分権の性質については、裁定がされる前は、支分権については、裁定を受けない限り、現実に給付を受けることはできないものの、国民年金法が、受給権の発生要件や年金給付の支給時期、金額について定めており(法18条、30条、33条等参照)、裁定は前記のとおり、確認行為にすぎないことなどに鑑みると、年金給付の支給事由が生じた後は、受給権者がその受給権について、長官の裁定を受けていないとしても、支分権は、その支給事由が生じた日の属する月の翌月から支給を始めるべきものとして、順次発生しているものと観念することができる。
 他方、受給権者は、基本権について、長官に対し、裁定請求をし、長官の裁定を受けさえすれば、直ちに支分権を行使することができるから、支分権については、権利不行使の状態が継続していると見ることができる。
 受給権者において裁定請求をすることは、国民年金法が年金支給の前提として当然に予定するところであるから(法16条)、裁定を受けていないことが、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障害に当たり、時効の進行の妨げになると解することはできない。
 原告は、国民年金法18条3項ただし書及び東京高裁判決(昭和46年7月29日)を指摘して、消滅時効は完成していない旨主張する。しかし、このただし書は、裁定請求の手続の遅れ等により、本来の支払期月に支払われなかった年金の支給時期について定めたものであって、時効消滅した年金の支給時期を規定するものとは解されない。
 東京高裁判決は、申告又は更正若しくは決定により納税義務が確定する法人税の徴収権の消滅時効に関し判断したものであり、受給権の発生要件や年金給付の支給時期、金額について国民年金法で定められた支分権の消滅時効が問題となる本件とは事案を異にするものである。したがって、原告の上記主張は、いずれも失当である、と判断しました。個別具体的事件の主張に対しては、問題の時点で,既に心神喪失の常況にあったと推認するにとどめました。被告の主張には多くの矛盾点がありましたが、それらは判決上問題とされませんでした。原告側の完敗でした。
(5)控訴審での控訴人(著者)の主張   
 第一審の結審後、控訴人(私)は、本件支分権の行使不可能の実態を裁判官にお伝えする方法として、この支分権(本件基本権についても言える)は、停止条件付き債権である旨の主張をするのが最適であることに気付きました。詰まり、受給権は、法定の要件が充足された時に発生(国民年金法第30条)するが、障害基礎年金の場合、裁定請求時には、障害等級に該当するかどうかも未定で、例え、主治医が該当すると認定しても、これは効力がなく、保険者の指定した医師等が認定する必要があり、かつ、該当する場合でも、裁定請求前には、1級、又は2級の障害等級は分からず、金額も分からないので、具体的請求権である支分権を、受給権者が請求することも、保険者が支払うこともできないのです。裁定請求時における障害年金支分権債権は、正に、債権の効力発生を、将来の成否未定の事実にかからしめる方法に合致しており、停止条件付き債権そのものだという趣旨の主張をしたのです。厳密に言えばこれは法律的に正しい表現ではないかもしれませんが、事の本質を伝えるのに一番良い方法だと判断したのです。
 この気付きは、被告(被控訴人)の主張自体に、条件未成就、及び期限の未到来は、消滅時効の進行上、法律上の障碍に当り、時効進行の停止事由になる旨自ら認めていた主張があったので思い付きました。本件裁定請求時に原告の置かれた事情は、その両方の要件に該当します。この状態で本件支分権の行使ができる筈がありません。情報の絶対量、及び訴訟担当者のスキルの差は歴然としており、相手方が格段上です。残念ながら、私は乙号証(相手側提出書証)の逆利用、及び相手側の主張の矛盾点を突くのが最大の武器でした。
(6)控訴審での被控訴人(国)の主張   
 第一審の判決が正に正しい判断をしている旨の主張で、本件の一般論について、これと言った新しい主張はありませんでした。
(7)名古屋高裁の判断・判決  
 名古屋高裁は冒頭記述のとおり、障害年金については、史上例にない画期的判決を下しました。停止条件付き債権という法律用語は一切使用しませんでしたが、実質的には私の主張を全面的(遅延損害金相当額の計算の起算日については、「原告が拡大請求した裁定請求月の翌月初日」、ではなく、「裁定が受給権者に通知された時点である」、と判断されましたが、私の拡大請求との差は、僅か1か月でした。私にとってこれは問題ではありません)に認めていただけたのです。そして、国の主張は、高裁判断と違った主張を縷々述べるが「理由がない」、とことごとく斥けられました。
 しかも、この判決の根拠として、本村年金訴訟・上告審 事件番号 平 3(行ツ) 212号(最判 平成 7.11.7:寡婦年金と老齢年金の支給調整(選択)の問題で、裁定の性質、及び支分権の取得時期について、名古屋高裁の判断と同じ考え方を説示しているもの)を確認し、その考え方が正しいとしました。私は、自分の主張に確たる自信があった訳ではないので、不安との闘いでした。名古屋高裁のこの自信に満ちた判決に大満足です。
 正義を実現する画期的判決が下されました。この価値は、受給権保護上絶大なものです。もう少し、何が画期的かを記述します。紙面の都合上、3項目を箇条書するにとどめます。①「裁定が単なる確認行為にすぎないことを考慮しても、裁定を受けない限り、支分権は、未だ具体化していないものというほかはない」、②「本件不支給部分についての消滅時効の起算点は、本件裁定が控訴人に通知された時点であるというべきである」、及び③「裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障碍に当たり、時効の進行の妨げになる」、です。
(8)同様の最高裁判例及び同様の考え方を説示した社会保険審査会裁決 
 上記(7)で記した本村年金訴訟・上告審の判例には、遺族の未支給年金の請求に関し、裁定の性質と支分権の権利の確定時期について、「国民年金法第19条1項所定の遺族は、社会保険庁長官による未支給年金の支給決定を受けるまでは、死亡した受給権者が有していた未支給年金に係る請求権を確定的に取得したということはできず、同長官に対する支給請求とこれに対する処分を経ないで訴訟上未支給年金を請求することができないものといわなければならない」、と判決理由で述べられています。
 社会保険審査会の裁決書(平成20年(国)第330号)当審査会の判断には、寡婦年金と老令年金の支給調整(選択)の問題では、平成14年(国)第61号事件で説示された社会保険審査会解釈を踏襲し、「国民年金法第16条は、給付を受ける権利は、その権利を有する者(受給権者)の裁定請求に基づいて社会保険庁長官が裁定する、と定めており、この規定の文言からすると、裁定の法律的な性質は、既に存在する受給権を確認する行為であると解される。しかしながら、実際に給付を受けるためには裁定を受けることが不可欠であり、裁定を経ることなく受給権を行使することはできないことは法の規定の体系から見て明らかであるから、裁定を経る前の受給権なるものは実態的な権利であるとはいうものの、裁定の性質は、実質においては裁定請求権に近い、現実的な実効性の希薄なものである。このような実効性の希薄な年金受給権について、裁定を経ない状態のままで、法令上の支給月の到来により個々の支分権まで発生するとするのは、事柄の実体から乖離した観念操作の嫌いがあり、容易に首肯することはできない。
 このことは、特に、支給の繰下げの申出が可能な老齢基礎年金においては、現実に(支給繰下げの申出を伴うこともある)裁定請求があるまでは、支分権が発生するかどうかも、その内容も確定しないことになるが(法第28条、国民年金法施行令第4条の5参照)、前記主張のような見解に立ちつつ、このような例外を認めることは、甚だしく 一貫性を欠いた法制度を認める結果となるものであり、それよりも、常に裁定があって初めて支分権が発生すると簡明に解する方が勝っているといわなければならない。以上に加えて、・・・」、と述べられ、裁定、及び支分権の性質を分かり易く説示しています。 
 なお、私は、最高裁判例、及び裁決書の情報を、本件の名古屋高裁判決に関する内容を中日新聞のWeb版の記事で読まれた大阪の仕事熱心なある社労士の方からのメールにより知りました。後者については、月間社労士の2009、4号に中林史枝社労士のレポートとして裁決内容の詳細が掲載されています。これも余談ですが、昔は、裁決集が市販されていましたが、現在は市販されておらず、我々が入手することはできないそうです。社会保険審査官の所で閲覧は可能だそうですが、電話照会の結果、代表事例のみの掲載で、しかも、事件番号は掲載がないことが分かりました。かつ、平成19年版が最新版との回答で、本稿で照会した平成20年の裁決書は、閲覧もできないのが現状でした。なおかつ気になる発言もありました。それは、「内容によってはお見せすることができないものもある」、との発言です。我々社労士は、正に最先端を走っているこの月刊社労士をゆめゆめ疎かにすべきでないと痛感しました。


4 上告の不当性及び我々が当面採るべき措置 
 被控訴人(国)は、5月2日付で、上告受理申立書を提出しましたが、 上記3で記述したように、本件一般論について、既に正しい考え方が最高裁で示され、かつ、社会保険審査会においても3回も同様の考え方が説示されていることを踏まえれば、一刻も早く次善の対処策を考えるべきです。
 長官や、社会保険審査官が同じ過ちを繰返すので、同様事件3回目の裁決書には、裁決書としては異例の、「遺憾の意の表明」(「社会保険庁長官は、前記当審査会解釈を一旦は受け入れ、平成18年(国)第110号事件では、当審査会裁決前に、自ら処分を見直し、本件と同様の事情にある寡婦年金請求者にそれを支給した。しかるに、本件においては、何らの事情変更がないにもかかわらず、当審査会解釈で否定された本件保険者解釈を再び持ち出した。当審査会としても、このような現実を目の当たりにすると、その原因が、仮に、実際に本件裁定請求手続を担当したC社会保険事務局C社会保険事務室長限りの問題であるとしても、これは社会保険庁の内部統制に問題があるのか、又は、当審査会の裁決を受けて、改めるべきは改めるという姿勢が欠如していると見ざるを得ないので、改めて遺憾の意を表さざるを得ない。また、審査官も請求人から当審査会の存在を指摘されながら、それについて検討することなく、漫然と本件審査請求を棄却したことは、請求人から、その職責を十分に果たしていないと批判され、その責任を追及されてもやむを得ない面がなきにしもあらずと言わざるを得ず、はなはだ遺憾であることを、敢えて指摘しておく。」)がされています。
 この両機関の考え方を誰よりも尊重しなければならないのは、国であり、厚生労働省である筈です。本件については、個々の具体的事件としても事実認定は終っており、被控訴人が上告しなければならない事由は全くありません。考えられる事由は、同様の事例の対処策を考えるための時間稼ぎだけです。このような事態は、私は既に第一審で警告を発しています。今更時間稼ぎが許される環境ではありません。私に言わせれば、このような不当訴訟(民法第709条根拠)類似の行為は、訴権の行使というよりは、権利の濫用に当り、国は即刻、上告を取下げ、被害者の掘り起こし、及び自主的な救済策を考えるべきものと確信しています。国民が年金制度に強い不安を持った状態で、保険料納付率を上げることはできません。共同通信社の取材に対し、年金局事業管理課は、「適切に対処していきたい」、と取材に応じていますが、上告という対処は全く適切ではありません。保険者(国)の、「時効ありき」、の考え方は、とても容認できるものではありません。最高裁へ上告されれば、棄却される場合でも、半年近く要するのが通常です。これでは問題を大きくするのみです。
 本件の社会保険事務所への説明・請求に始まり、上告までの保険者(国)の対応は、度重なる悪循環の繰返しでした。今まで行ってきたことを根底からやり直すことは大変なことですが、過ちに気が付いた時点でできるだけ早期に対処するのが保険者(国)の採るべき正しい姿勢です。私は上手く表現できませんでしたが、保険者(国)の考え方が間違っていることを、社会保険審査会が的確に表現しています。「このような実効性の希薄な年金受給権について、裁定を経ない状態のままで、法令上の支給月の到来により個々の支分権まで発生するとするのは、事柄の実態から乖離した観念操作の嫌いがあり、容易に首肯することはできない」、の部分です。これ以上明解な表現はどこにも見当りません。この内容は、私が言いたかった内容そのもので、真に的確な表現です。
 保険者(国)がこれ以上誤った主張を繰返せば、「遺憾の意の表明」、では治まらなくなります。今度は、国(厚生労働省、及び法務省)、に対して「内部統制に問題がある」のか、又は、当審査会の裁決を受けて「、改めるべきは改めるという姿勢が欠如している」と見ざるを得ないことになってしまいます。関係者には、しっかり目覚めていただきたい。
 上告受理申立書を見ると、国は指定代理人を12名に増やし、本気である旨を示していますが、今まで合理的な理由を何一つ主張していません。本件事案は、原告本人が成年被後見人である障害基礎年金の問題ですから、過去の事案よりも裏付けとなる事実関係は分かり易くなり、既述の最高裁判例、及び裁決書の内容を覆す主張ができる筈がありません。加えて、本件では論争とまでは至っていませんが、本村年金訴訟と同様、本件においても老齢基礎年金(加給年金額、及び振替加算関連)と障害基礎年金の選択の問題、及び説明責任の問題もあります。上告受理申立書の指定代理人を選んだ責任者、及び12名の指定代理人の誰一人として、前掲の裁決書を見ていないのでしょうか。実に明解に説示し、誤解の生じる余地はありません。主張の正当性は、指定代理人の数の問題ではありません。
 今までの保険者(国)の対応姿勢からすると、本件判決が確定しても、保険者(国)が、自主的な救済策を講じないことも十分考えられます。この場合、名古屋高裁の考え方をもってしても、裁定が受給権者に通知された時点から、5年を超えてしまえば、例え、10年分(2級該当で約800万円)でも、15年分(2級該当で約1,200万円)でも、すべて一瞬にして本件支分権の消滅時効は完成してしまいます。(上記により本稿内容の公表は緊急性があり、最高裁の裁断までには早くても半年近くを要することが予測され、かつ、前記(8)が把握できたので、私は、判決確定前の寄稿を決意しました。)
 現実の社会を見た場合、今日現在から最高裁が判断を下すまでの間にも、消滅時効が完成してしまう事案が幾つも発生する可能性は十分あります。その場合、保険者(国)はどのような補償をするのでしょうか。原因は、保険者(国)の誤った法律の運用・解釈であることを十分認識した対処策を打ち出してほしいものです。
  一方で、我々社労士は、自ら係わった事件、又は知り得た事件について、同様の事情で不支給とされ、裁定日から5年経過が迫っている事案については、受給権者等と相談のうえ、当面、消滅時効を中断する措置を採る必要があるものと考えます。具体的には、内容証明郵便で、日本年金機構に対し、この分の支払いの請求をしておくべきものと考えます。それでも保険者が支払わない場合は、金額等にもよりますが、6か月以内に、裁判上の請求をする必要があります。
※ 裁判上の請求みなし  
  時効の進行については、社会保険審査官や社会保険審査会への審査請求も、裁判上の請求同様  に、時効中断事由とされていますが、却下や取下げの場合は、この適用がありません。前掲(8) からすると、社会保険審査会が却下することは考えられませんが、社会保険審査官が却下する可能 性は十分考えられます。私が経験したように、原処分を裁定であると判断されてしまうこともあり ますし、内容証明に対して回答文書がなかった場合は、不作為が処分であるのか、ないのか等別の 問題が発生してしまう可能性もあります。

 5 拡大解釈の危険性について 
 平成24年4月21日(土)の日経新聞の地方版、又は中日新聞の本件名古屋高裁の判決に関する記事を見た関係者が、保険事故の有無、及び時期が明らかな老齢年金や遺族年金についても、類推適用されるものと考え、各方面に照会をする動きがあったと聴いています。本件事件はあくまで、個別具体的事件に対する判決ですので、安易に拡大解釈することは、今の段階では問題があります。受給権者が権利を行使しようと思えばできる事案にまで、この考え方を拡大する合理的理由はないものと私は考えています。

※ 本記事のタイトルを「寄稿草案」、とした理由
  私は、本日現在、月刊社労士への寄稿自体を、一刻も早くすべきか、判決が確定するまで待つべ きか迷っているので、本タイトルを「月刊社労士への寄稿草案」、としました。寄稿し速やかに掲 載されれば、既に、同様の内容について最高裁判例があるとはいえ、未だ係争中の事件を公的な月 刊誌に公表することになり、判決確定まで待てば、今度こそ本当に消滅時効が完成してしまう人が 現われてしまうから悩ましいところです。この判断は、連合会がすれば良い事かもしれませんが、 連合会としても、これを知れば救済される人を見捨てるのも、自らの監督官庁を批判する内容を判 決未確定の内に掲載するのも、行い難い面があります。中林先生の寄稿内容も類似のものですが、 事件が確定してからの寄稿ですし、行為の主体は監督官庁ではありません。しかし、権利保護の側 面も大きく、考えようによっては、監督官庁だからこそ、改めるべきは早期に改めてほしい側面も あります。この判断を連合会に預ける前に、今しばらく考えることにしました。                                                              
                                         愛知会  木戸 義明

※ 20120516記事の © 文字制限のなかったころのイメージによる草案であるので、想いを羅列しただけの長文となっています。 

 

 4.21(土)のブログの二つ目の主張根拠について、私は保険者の関係専門家も、社労士も、弁護士も、学者も、今まで誰一人として指摘していない論点と思っていましたが、実は社会保険審査会では、寡婦年金と老齢年金の支給調整(選択の問題)で、既に3回(平成14年、平成18年、平成20年)も名古屋高等裁判所が下した考え方と同じ考え方が説示されていたことが分かりました。最初に示された審査会解釈の概要を示すと、「裁定の法律的な性質は、既に存在する受給権を確認する行為であると解される。しかしながら、実際に給付を受けるためには裁定を受けることが不可欠であり、裁定を経ることなく受給権を行使することはできないことは法の規定の体系からみて明らかであるから、裁定を経る前の受給権なるものは、実体的な権利であるとはいうものの、実質においては裁定請求権に近い、現実的な実効性の希薄なものである。このように実効性の希薄な年金受給権について、裁定を経ない状態のままで、法令上の支給月の到来により個々の支分権まで発生するとするのは、事柄の実体から乖離した観念操作の疑いがあり、容易に首肯することはできない。」、と明解な解釈を説示しています。何事もその道に入ってみないと分からないものです。

 私は、独自の考え方と思っていたので、独善を防ぐ意味で、周りの社労士や、弁護士の先生等色々な人に私の考え方が正しいのかどうかを機会あるごとに尋ねてきました。しかし、ほとんどの社労士の方には理解されませんでした。今更、何をおかしなことを言っているんだ、頭がおかしくなったんじゃないか、と言う感じでした。弁護士の先生は半数以上の方が、理解を示され、応援をしてくださいました。保険者の側にも3人の方が、私の考え方を正しいとお認めになりました。折角そのような人がみえるのに、執行者と言うのは、時に困ったもので、他の願ってもない貴重な意見を聴こうとしません。これを正すには、上司の監督権を行使してもらうより方法がありません。ところが、保険者側は、その上司もこの執行者同然です。今回の国側の指定代理人は12名おみえになりますが、その内の誰一人として、自己矛盾に気付かないのでしょうか。これが国民の命を守るべき重要な法律の法律解釈の基本で起こっていることが重大問題です。これに関しては事実認定の問題は全くありません。主管庁の最高責任者である厚生労働大臣、及び法務大臣と官僚の考え方が一致しているのかどうかも甚だ疑問です。この訴訟中にも両大臣は次々と替わり、引継ぎはなされていないようです。話は少し変わりますが、更に、別の情報もありました。熱心な社労士の方からの情報ですと、審査会と同じような考え方が、最高裁判例にもあるのです。この判例は判例価値の高いものです。老齢年金支給請求事件(本村年金訴訟・上告審)平成7年11月7日 最高裁第三小法廷です。審査会の説示の約7年前にです。名古屋高裁もこれを確認して、本判決に引用しています。情報に関して問題なのは、一般人がこのような重要な情報を得ることは難しくなってきたことです。社会保険審査会裁決集は以前は、市販されていました。現在は市販されていないので、これを見ようと思うと社会保険審査官のところに出向き、閲覧を申請する必要があります。コピーは必要な枚数であれば無料とのことです。しかし、最新版が平成19年のものです。従って、先ほど紹介した平成20年の裁決集を見ることはできないのです。この裁決書には異例とも言える遺憾の意が表明されています。3回も同じ過ちを繰り返しているので「社会保険庁の内部統制に問題があるのか・・・」、「改めるべきは改めるという姿勢が欠如している・・・」、と長官も、審査官も痛烈に非難されているのです。今回名古屋高裁の的確な判決に対して上告を決めたところをみると、この体質は現在の厚生労働省に受け継がれていることになります。この裁決集にない平成20年の裁決が、なんと月刊社労士に掲載されていたのです。私たちは、先ず、足元を大事にしましょう。正に脚下照顧!!

 名古屋高等裁判所は、この問題の事実・実態・実質を的確に把握し、寸分の隙もない適正な判断を示しています。「本件不支給部分(省略)についての消滅時効の起算点は、・・・」と限定しているのですから、国に異論が出る筈がないのに、何に不満があるのでしょうか。時間稼ぎのようなこのような行為は、訴権の行使というより、権利の濫用で、不当訴訟(民法第709条根拠)類似の行為であると私は憤慨しています。この問題は、私が社労士を目指すようになった原点ですし、例の二つ目の主張根拠については、いわば民衆訴訟の気概をもって争ってきたものです。今まで、受給権者、そのご家族、及び精神科医師の方等が不満と疑問を持ちながら、我慢をしてきた問題です。読者(訪問者)の中には、高々「時効」とお考えの方もおみえになるでしょうが、受給権保護上重要な事項です。金額も大きく、例えば障害基礎年金2級で10年分ですと、約800万円です。その人の人生は一変します。これも、裁定請求から5年を経過すると一瞬にして消えてしまいます。事は緊急を要します。改めるべきは、少しでも早期に改めていただきたいものです。

※ 20120512記事を ©

「遂に出た画期的判決」に対する反響

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 先週の記事、「遂に出た画期的判決」、については、色々な人から色々なご意見をいただいています。誠に有り難い事です。

 大阪のある社労士の方には、私が一般の方にも分かり易いように記事を変更した部分に対して、賛同をいただけた旨メールをいただきました。社労士関係の関連記事には常に網を張ってみえ、キーワード検索で見付けたそうです。職務に対する姿勢がいいですね。私も見習いたく思いました。

 折角ですので、以下にこの部分を引用させていただき、本日のブログはこれをもって終りとさせていただきます。

 「なお、今回、追記されましたブログのご意見についてですが、全面的に仰る通りだと思います。老齢年金は基本的に支給開始年齢に達する誕生日の3カ月前に請求用紙が届きますし、300月未満の方にも、他にカラ期間等が無いかどうか確認するようハガキが届きますので、「知らなかった」は通りません。遺族年金についても、本来、受給者死亡時点での届出が義務付けられており、その際に未支給年金と遺族年金の案内が有りますので、これもまた「知らなかった」は通りません(届出せずに「知らなかった」は、なお通らないと思います)。
 
障害年金についても、例えば糖尿病から人工透析となる、等の事後重症のケースでは、今回の判決の様な考え方が適するとは思えませんし、認定日請求であっても、例えば人工関節を入れる等の明確な身体症状が有り、本人が障害手帳を申請する等の明確な自覚が有った場合は、別の判断となる可能性も高いのではないかと思います。
一方で、メンタルヘルス関係については、ご本人・ご家族の自覚が無いケースも多く、更に、担当医師が制度に無関心な場合には、勝手に「該当しない」旨を判断されていることも多いようですので、今回の判決に該当してくるケースも有るのではないかと思います。
 
今回、事例を追加いただきましたブログ記事は、読み込めば読み込むほど勉強になる判決ですので、ぜひ、もっと多くの方に知って頂きたいと思います。」

※ 20120428記事を ©

 

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 先週の記事、「遂に出た画期的判決」、については、色々な人から色々なご意見をいただいています。誠に有り難い事です。

 大阪のある社労士の方には、私が一般の方にも分かり易いように記事を変更した部分に対して、賛同をいただけた旨メールをいただきました。社労士関係の関連記事には常に網を張ってみえ、キーワード検索で見付けたそうです。職務に対する姿勢がいいですね。私も見習いたく思いました。

 折角ですので、以下にこの部分を引用させていただき、本日のブログはこれをもって終りとさせていただきます。

 「なお、今回、追記されましたブログのご意見についてですが、全面的に仰る通りだと思います。老齢年金は基本的に支給開始年齢に達する誕生日の3カ月前に請求用紙が届きますし、300月未満の方にも、他にカラ期間等が無いかどうか確認するようハガキが届きますので、「知らなかった」は通りません。遺族年金についても、本来、受給者死亡時点での届出が義務付けられており、その際に未支給年金と遺族年金の案内が有りますので、これもまた「知らなかった」は通りません(届出せずに「知らなかった」は、なお通らないと思います)。
 
障害年金についても、例えば糖尿病から人工透析となる、等の事後重症のケースでは、今回の判決の様な考え方が適するとは思えませんし、認定日請求であっても、例えば人工関節を入れる等の明確な身体症状が有り、本人が障害手帳を申請する等の明確な自覚が有った場合は、別の判断となる可能性も高いのではないかと思います。
一方で、メンタルヘルス関係については、ご本人・ご家族の自覚が無いケースも多く、更に、担当医師が制度に無関心な場合には、勝手に「該当しない」旨を判断されていることも多いようですので、今回の判決に該当してくるケースも有るのではないかと思います。
 
今回、事例を追加いただきましたブログ記事は、読み込めば読み込むほど勉強になる判決ですので、ぜひ、もっと多くの方に知って頂きたいと思います。」

 

遂に出た画期的判決 時効問題控訴審完全勝訴

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 昨日(20120420(金))、名古屋高等裁判所(渡辺修明裁判長)が、「本件障害基礎年金の5年超経過で消滅時効が完成しているとして不支給とされている年金給付(支分権の相当額)を支払え」、という趣旨の画期的判決を下しました。予ねて私が予言(20111102 グログを始めるに当って 参照)していた画期的判決が遂に出たのです。このブログの関連記事4件は最後段に参考表示しますが、素人が基本的な考え方(合理性、及びリーガルマインド)のみを武器にして、国の指定代理人12人と一人で争ってきた約2年間(当時の豊田社会保険事務所への請求からは、約3年間という永い年月)、及び類似の障害をお持ちの方たちのご支援ができること等を考えると、人生最大の喜びでした。(参考 支分権:基本権に基づき、支払期月ごとに支給を受けられる具体的な年金受給権)


 この事例は、初診日当時49歳のサラリーマンの妻である国民年金の第3号被保険者が、統合失調症に罹患し、初診日当日、即入院となり、同病院に1年7カ月入院していたので、実は、障害認定日は、退院の1カ月前で、退院時には既に障害基礎年金の裁定請求をすることができる障害の状態であったのです。ところが本人は、自分が病気であるとか、障害者であるとかの認識が薄く、服薬も家族の援助がないとできない状態でした。家族や親戚の者も障害基礎年金の障害等級に該当するほどの障害の状態とは思っておらず、裁定請求はそれから約10年後の、本人が60歳になってからになってしまった案件です。なお、後述する一つ目の主張根拠については、本人の行為能力は、支分権の最初の消滅時効の到来する間際には、心神喪失の常況、又はそれに近い状態であったと推認されたことによる判決です。


 このような視点で実社会で起きている現実の事例を見わたすと、病院を転々として診療記録が明確にならなかったり、病院自体が閉鎖されていたり、診療録が法定保存期限(5年)を過ぎているので廃棄されていたりと、現在の保険者の運用方法では、障害者の保護の観点からは色々な面で大きな問題を抱えています。本件では、原告本人が退院後も同じ病院に家族の介助を受けて定期的に通院を続けており、現在も回復せず通院している状態で、主治医の先生からも、治る可能性は極めて低いと言われていました。


 第一審では、私の無知から弁論主義によろところの主張責任を果たせず敗訴しましたが、原審の判決後気付いた、停止条件付き債権の原理を主張することによって、障害基礎年金支分権の消滅時効の起算日に関する国の運用が間違っていることを名古屋高等裁判所に認めていただけた(停止条件付き債権という法律用語は使用していないが、ほぼ同様の内容・効果を認めていただいている)のです。仕事とはいえ、良くぞ拙い長文を根気良く読んでいただけたと涙が出るほど嬉しくなりました。ブログのテーマそのままで、正に問題発見は正しい視点からされていたことが証明できました。社労士冥利につきます。

 本件の主張の根拠は2つあり、一つは、個別具体的事件としての民法第158条1項の類推適用の問題であり、二つ目は、そもそも本件障害基礎年金の支分権が、裁定請求前に消滅時効の進行にかかるのかどうかの問題です。

 私は、当初前者で勝つのは当たり前の問題で、後者の理由で勝訴することにより、多くの障害者に対する支援に大きな影響力を発揮しようと、いわば、民衆訴訟提起の気概をもって、途中から後者の主張に力を入れていました。ところが、原審では、主張根拠の選択どころか、前者の根拠についても負けてしまったのです。このときの敗北感は何とも情けなく、惨めで、自分を失いかけました。裁判所でも正義が勝てないのかと世の中の動きに疑念を抱くような心の揺れた時期もありました。それでも色々考え、考え方を整理し、紙に書いたりしました。ことの道理からして、私に時間を気にせず相談・議論できる弁護士が一人でもいたら勝てる案件だとの自信があったので、論点・争点を整理し、両社の立場から多面的に事実と、道理を何度も何度も考え直しました。


 二つ目の根拠に対する私の主張は、今まで、国の専門職関係者も、年金の専門家である社労士も、弁護士も、学者も、誰一人として指摘してこなかった論点(ある程度法律の知識が必要、社会保険に関する知識が必要、及び具体的事件に遭遇する、という3要素が重ならないと論点とするチャンスもない問題)です。公的年金としての障害年金には、約70年という永い歴史があるのですが、日本中で私だけが偶然その3要素に恵まれたのです。この責任を果たさなければ、社労士になった意味が半減します。私に与えられた使命と感じ対処してきました。これは「コロンブスの玉子」で、これからは、名古屋高裁の判断が当り前になってくることでしょう。

 この判決の何が画期的かと言えば、「裁定が単なる確認行為にすぎないことを考慮しても、裁定を受けない限り、支分権は、未だ具体化していないものというほかはない。」(一部省略)と言い切ったところです。これに関する国の主張は、国民年金法第18条3項に基づく、基本権に連動させた条文上の表現による架空の原則的な支払期月です。基本権と支分権の関連については、中々難しく、私も確たる信念がある訳ではありませんが、少なくとも、実社会で運用される重要な法律の運用で、事実関係を架空で置き換えて運用されることには、法律を少しはかじった者として許し難いところがあり、我武者羅に形振り構わず主張してきました。

 いま一つの画期的は、「本件につき、裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障碍に当たり、時効の進行の妨げになるというべきである・・」、と断言したことです。これは、今までの民法学者(我妻栄氏等超権威者)の諸説等(参考 法律上の障碍:期限の未到来とか条件未成就のような権利を行使することができない状態のこと、そして、「事実上の障碍、及び個人的な障碍は、法律上の障碍ではない」、というのが通説になっている)から考えると、勇気のいる判断ですが、明文をもって断定していただきました。

 画期的は、まだ一つあります。それは「本件不支給部分についての消滅時効の起算点は、本件裁定が控訴人に通知された時点であるというべきである」(一部省略)と言い切ったところです。これによれば、控訴人の請求は5年以内となり、支分権の消滅時効は完成していないことになります。 これに関する国の主張は、国民年金法第18条3項に基づく、基本権に連動させた条文上の表現による架空の原則的な支払期月の翌日です。これによれば、時効の進行から5年を超える経過があり、基本的には法律上消滅時効は完成してしまいます。社会保険審査官は、私の電話による質問に対し、「裁定請求の翌日」、という回答をしてくれました。私はこの回答に基づいて請求をしましたが、判決との違いは僅か1カ月のことです。この問題は、遅延損害金相当額の計算に関係してきますが、私に何の異存もなく大満足の判決でした。

 また、民法第158条1項に基づく類推適用も認めていただけたので、控訴審は私にとって完全勝訴と言えるものでした。これらの論点が大きな問題である事は、分かる人にしか分からない内容ですが、この内容で判決が確定すれば、障害者支援の大きな力になるものと確信しています。


 国は、「内容を精査して適切に対処していきたい」(一部省略)、としていますが、上告が適切と判断される事も考えて、臨戦態勢を強化しています。

 概要は、本日付日本経済新聞 朝刊 地方版39頁「障害基礎年金支給 5年より前の分も」、「名古屋高裁 国に命令」、を参考にしてください。
※ 参考 本ブログ 関連記事
 20120414 厚生労働大臣への意見票
 20120324 縦割り行政の弊害
 20111210 停止条件付き債権
 20111126 障害基礎年金の消滅時効の適正化について
※ 読者へのお願い(ご注意) 
 この判決はあくまで、個別具体的事件に対する判決ですので、公的年金については、3つの画期的のすべて(つまり、「裁定が単なる確認行為にすぎないことを考慮しても、裁定を受けない限り、支分権は、未だ具体化していないものというほかはない」、「裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障碍に当たり、時効の進行の妨げになる」、及び「本件不支給部分についての消滅時効の起算点は、本件裁定が控訴人に通知された時点であるというべきである」の3つ)について、一般論として言える段階ではないということです。今のところ、私は、保険事故の事実が誰の目にも明らかな場合、例えば、老齢年金や遺族年金に拡大解釈することは危険であると思っています。勿論、障害年金についても、同様のことが考えられます。

※ 20120421記事を ©

遂に出た画期的判決 時効問題控訴審完全勝訴

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 昨日(20120420(金))、名古屋高等裁判所(渡辺修明裁判長)が、「本件障害基礎年金の5年超経過で消滅時効が完成しているとして不支給とされている年金給付(支分権の相当額)を支払え」、という趣旨の画期的判決を下しました。予ねて私が予言(20111102 グログを始めるに当って 参照)していた画期的判決が遂に出たのです。このブログの関連記事4件は最後段に参考表示しますが、素人が基本的な考え方(合理性、及びリーガルマインド)のみを武器にして、国の指定代理人12人と一人で争ってきた約2年間(当時の豊田社会保険事務所への請求からは、約3年間という永い年月)、及び類似の障害をお持ちの方たちのご支援ができること等を考えると、人生最大の喜びでした。(参考 支分権:基本権に基づき、支払期月ごとに支給を受けられる具体的な年金受給権)


 この事例は、初診日当時49歳のサラリーマンの妻である国民年金の第3号被保険者が、統合失調症に罹患し、初診日当日、即入院となり、同病院に1年7カ月入院していたので、実は、障害認定日は、退院の1カ月前で、退院時には既に障害基礎年金の裁定請求をすることができる障害の状態であったのです。ところが本人は、自分が病気であるとか、障害者であるとかの認識が薄く、服薬も家族の援助がないとできない状態でした。家族や親戚の者も障害基礎年金の障害等級に該当するほどの障害の状態とは思っておらず、裁定請求はそれから約10年後の、本人が60歳になってからになってしまった案件です。なお、後述する一つ目の主張根拠については、本人の行為能力は、支分権の最初の消滅時効の到来する間際には、心神喪失の常況、又はそれに近い状態であったと推認されたことによる判決です。


 このような視点で実社会で起きている現実の事例を見わたすと、病院を転々として診療記録が明確にならなかったり、病院自体が閉鎖されていたり、診療録が法定保存期限(5年)を過ぎているので廃棄されていたりと、現在の保険者の運用方法では、障害者の保護の観点からは色々な面で大きな問題を抱えています。本件では、原告本人が退院後も同じ病院に家族の介助を受けて定期的に通院を続けており、現在も回復せず通院している状態で、主治医の先生からも、治る可能性は極めて低いと言われていました。


 第一審では、私の無知から弁論主義によろところの主張責任を果たせず敗訴しましたが、原審の判決後気付いた、停止条件付き債権の原理を主張することによって、障害基礎年金支分権の消滅時効の起算日に関する国の運用が間違っていることを名古屋高等裁判所に認めていただけた(停止条件付き債権という法律用語は使用していないが、ほぼ同様の内容・効果を認めていただいている)のです。仕事とはいえ、良くぞ拙い長文を根気良く読んでいただけたと涙が出るほど嬉しくなりました。ブログのテーマそのままで、正に問題発見は正しい視点からされていたことが証明できました。社労士冥利につきます。

 本件の主張の根拠は2つあり、一つは、個別具体的事件としての民法第158条1項の類推適用の問題であり、二つ目は、そもそも本件障害基礎年金の支分権が、裁定請求前に消滅時効の進行にかかるのかどうかの問題です。

 私は、当初前者で勝つのは当たり前の問題で、後者の理由で勝訴することにより、多くの障害者に対する支援に大きな影響力を発揮しようと、いわば、民衆訴訟提起の気概をもって、途中から後者の主張に力を入れていました。ところが、原審では、主張根拠の選択どころか、前者の根拠についても負けてしまったのです。このときの敗北感は何とも情けなく、惨めで、自分を失いかけました。裁判所でも正義が勝てないのかと世の中の動きに疑念を抱くような心の揺れた時期もありました。それでも色々考え、考え方を整理し、紙に書いたりしました。ことの道理からして、私に時間を気にせず相談・議論できる弁護士が一人でもいたら勝てる案件だとの自信があったので、論点・争点を整理し、両社の立場から多面的に事実と、道理を何度も何度も考え直しました。


 二つ目の根拠に対する私の主張は、今まで、国の専門職関係者も、年金の専門家である社労士も、弁護士も、学者も、誰一人として指摘してこなかった論点(ある程度法律の知識が必要、社会保険に関する知識が必要、及び具体的事件に遭遇する、という3要素が重ならないと論点とするチャンスもない問題)です。公的年金としての障害年金には、約70年という永い歴史があるのですが、日本中で私だけが偶然その3要素に恵まれたのです。この責任を果たさなければ、社労士になった意味が半減します。私に与えられた使命と感じ対処してきました。これは「コロンブスの玉子」で、これからは、名古屋高裁の判断が当り前になってくることでしょう。

 この判決の何が画期的かと言えば、「裁定が単なる確認行為にすぎないことを考慮しても、裁定を受けない限り、支分権は、未だ具体化していないものというほかはない。」(一部省略)と言い切ったところです。これに関する国の主張は、国民年金法第18条3項に基づく、基本権に連動させた条文上の表現による架空の原則的な支払期月です。基本権と支分権の関連については、中々難しく、私も確たる信念がある訳ではありませんが、少なくとも、実社会で運用される重要な法律の運用で、事実関係を架空で置き換えて運用されることには、法律を少しはかじった者として許し難いところがあり、我武者羅に形振り構わず主張してきました。

 いま一つの画期的は、「本件につき、裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障碍に当たり、時効の進行の妨げになるというべきである・・」、と断言したことです。これは、今までの民法学者(我妻栄氏等超権威者)の諸説等(参考 法律上の障碍:期限の未到来とか条件未成就のような権利を行使することができない状態のこと、そして、「事実上の障碍、及び個人的な障碍は、法律上の障碍ではない」、というのが通説になっている)から考えると、勇気のいる判断ですが、明文をもって断定していただきました。

 画期的は、まだ一つあります。それは「本件不支給部分についての消滅時効の起算点は、本件裁定が控訴人に通知された時点であるというべきである」(一部省略)と言い切ったところです。これによれば、控訴人の請求は5年以内となり、支分権の消滅時効は完成していないことになります。 これに関する国の主張は、国民年金法第18条3項に基づく、基本権に連動させた条文上の表現による架空の原則的な支払期月の翌日です。これによれば、時効の進行から5年を超える経過があり、基本的には法律上消滅時効は完成してしまいます。社会保険審査官は、私の電話による質問に対し、「裁定請求の翌日」、という回答をしてくれました。私はこの回答に基づいて請求をしましたが、判決との違いは僅か1カ月のことです。この問題は、遅延損害金相当額の計算に関係してきますが、私に何の異存もなく大満足の判決でした。

 また、民法第158条1項に基づく類推適用も認めていただけたので、控訴審は私にとって完全勝訴と言えるものでした。これらの論点が大きな問題である事は、分かる人にしか分からない内容ですが、この内容で判決が確定すれば、障害者支援の大きな力になるものと確信しています。
 国は、「内容を精査して適切に対処していきたい」(一部省略)、としていますが、上告が適切と判断される事も考えて、臨戦態勢を強化しています。

 概要は、本日付日本経済新聞 朝刊 地方版39頁「障害基礎年金支給 5年より前の分も」、「名古屋高裁 国に命令」、を参考にしてください。
※ 参考 本ブログ 関連記事
 20120414 厚生労働大臣への意見票
 20120324 縦割り行政の弊害
 20111210 停止条件付き債権
 20111126 障害基礎年金の消滅時効の適正化について
※ 読者へのお願い(ご注意)
 この判決はあくまで、個別具体的事件に対する判決ですので、公的年金については、3つの画期的のすべて(つまり、「裁定が単なる確認行為にすぎないことを考慮しても、裁定を受けない限り、支分権は、未だ具体化していないものというほかはない」、「裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障碍に当たり、時効の進行の妨げになる」、及び「本件不支給部分についての消滅時効の起算点は、本件裁定が控訴人に通知された時点であるというべきである」の3つ)について、一般論として言える段階ではないということです。今のところ、私は、保険事故の事実が誰の目にも明らかな場合、例えば、老齢年金や遺族年金に拡大解釈することは危険であると思っています。勿論、障害年金についても、同様のことが考えられます。

※ 20120421記事 ©

厚生労働大臣への意見票

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 本日は、本来業務に関する障害者支援の活動について、訪問者有志各位のご意見を求めます。ご意見は簡潔で十分ですし、要点を箇条書したものでも結構です。メールか電話で宜しくお願い申し上げます。以下は、業界として、社会保険労務士法に基づき主管の厚生労働大臣に対して改善意見を提出すべく、全国社会保険連合会に提出した意見票の概要です。主に国民年金法について記述しています。

1.問題点
 国民年金法第30条に基づく障害基礎年金は、法律の定める要件を具備したときから受給権が発生する規定ですが、重度の精神障害等の場合は、本人が病気、又は障害と認識さえしていない場合が多く、種々の事情で、裁定請求自体が、10年、15年と遅れる場合があります。その場合も、現在の保険者の運用ですと、5年遡及を越えた部分の支分権については、消滅時効が完成しているとして支給されていません。
 現実的な時効の中断(権利行使)機会のないこのような場合まで、国民の生命に係る重大な給付(権利)を一方的に剥奪するのは、社会的に問題です。この場合、生活に困窮しているケースが多く重なります。

2.具体的改善策(解決策)
① 障害基礎年金、及び障害厚生年金の裁定請求を代理人でもできる旨を、社会保険審査官及び社会保険審査会法(第5条の2第1項)のように、法律の規定で明文化する。

② 成年被後見人の登録を後から受けた場合でも、客観的に「心神喪失の常況」であったと認められるような場合には、裁定請求の属する月の翌月の初日を支分権消滅時効の起算日とする特例規定を設ける。

③ 障害基礎年金、及び障害厚生年金の消滅時効期間を、民法の一般債権の時効期間と同じく、「10年間」、とする特例を設ける。


  現状の問題点
1 憲法第25条2項の理念に基づく国民の生存権に係る重要な給付(権利)が、現実の権利行使の機会がないまま消滅時効が完成してしまうことは、不合理であり社会正義に反すること。

① 本件支分権も、基本権の発生に連動して、国民年金法第18条3項の定める原則的な支払期月が法定の支払期月と解釈されているので、例えば、10年裁定請求が遅れた場合は、約5年分の支分権が全く、現実の、権利行使の機会がないまま時効消滅したものとして支払いがなされていません。それは、法律上、裁定請求を早く(消滅時効が完成する前に)すれば、権利行使できたとみなされているからです。裁定請求前の全ての期間(消滅時効が完成したとみなされている期間を含む)が、権利行使をしようと思えばできた期間とみなされています。しかし、実質上の行為無能力者は、裁定請求ができる訳がないので、この運用は大きな問題です。
 消滅時効進行上の法律解釈の通説では、期限の未到来とか、条件の未成就等(本件で述べれば、国に直接の原因がある場合を除き全ての場合)以外の場合は、事実上の事由、又は個人的事由と考えられているので、現実の社会のほとんどの事情が消滅時効の停止事由とはならないことになっています。

② 成年被後見人が、時効期間満了前6カ月内に法定代理人を有しないときは、法定代理人が就任後6カ月以内は、民法第158条1項の適用により、消滅時効の完成が猶予される旨の規定があります。この規定の適用要件は、成年被後見人が時効完成前6カ月の間に、例え1日でも、法定代理人(成年後見人)を欠くこととしています。この期間に成年被後見人でないものであっても、実質的に心神喪失の常況にある者には、類推適用等がされている判例もありますが、この判例法理の適用実績は極めて少数です。元々、周りの者が、時効完成前に裁定請求できる状態だと気付けば裁定請求を手助けすれば足りることになるので、この問題では、この規定は実行上機能していません。
 また、前述の判例について、少し詳しく述べれば、上記 1 の不合理を救済するには、上記 ① の理由により、本条による以外に方法はないのですが、この適用等は、訴訟によらなければならず、理解しづらいものです。

 一方、本来の消滅時効期間の経過後に成年被後見人に登録され、成年後見人が6カ月以内に裁判上の請求をした場合は、法意による解釈(最判平10・6・12民集52巻4号1087頁)とか、類推解釈(東京地判平11・5・28 判時1704号102頁)により、裁判所は、消滅時効の完成を猶予する旨の判断を示していますが、前者は、ワクチン禍訴訟の判例で、加害者が債務者の関係があり、後者は、前者よりは広く類推適用していますが、未だ最高裁により認められていない判例ですので、立法による救済が必要です。

③ 更に、本件支分権は、民法第127条1項(本件では、基本権につき、3項も関係する)の定める、停止条件付債権と言える要件を備えた債権であるのに、保険者は、言わば、停止条件の成就前に時効を完成させているという、現実の社会とは遊離した運用をしており、合理的な運用解釈とは言えない。

④ 国民年金の保険料の納付率が制度の維持が困難になるほど悪いのに、二十歳前障害とか、障害基礎年金の有効な保険機能を普及活動の有力な武器として活用していない。

⑤ 本来権利のあるものに不支給としていることによって、生活保護の受給者を増加させている可能性が高く、このことは、一般労働者の健全な勤労意欲を維持・向上させる意味、及び社会の実態を把握する上でも問題である。


2 精神障害者、視覚障害者、及び聴覚障害者には、止むを得ない事情により裁定請求が遅れている者が数多くいるという事実があること。

① 裁定請求の遅れは、いずれの場合も、直接的には国の責任とは言えないが、宣伝とか周知の不足という意味では、いくらかは国に責任があるものと考える。

② 障害年金の取扱を得意とするある社労士は、自分の取扱う事案では、障害年金の分かりにくさとか手続の複雑さとかが原因で、ほとんどが障害認定日から5年超経過しているものだと述べてみえます。服部営造先生の書籍(年金の基礎知識、自由国民社)の事例等を拝読しても、多くの該当事例が存在するものと推測される。


3 2 の ② の根拠
① 本件支分権は、実質上、停止条件付債権と言える。

② 問題の期間に心神喪失の常況にあったかどうかは、本人の支援者等の協力により、家庭裁判所が客観的に判断を下してくれるので、実行上問題はない。

※ 現在(平成19年7月6日以降)の国民年金法第102条は、消滅時効の完成には、援用を要することに改正されているので、裁定請求が遅れた事由が、止むを得ない事情の場合に、保険者(国)が時効の援用をしないことで足りるが、客観性、透明性、及び予見可能性を高める意味で提言に及びました。

 ※ 20120414記事から ©